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   たすけこし 星のやどりを ふりすてゝ 獨りいでにし

   わしのやま 世にも稀なる あととめて 深きながれに

   むすぶてふ のりの淸水の そこすみて 濁れる世にも

   にごりなし ぬまの葦まに かげやどす 秋のなかばの

   つきなれば なほ山のはを ゆきめぐり そらふく風を

   あふぎても 空しくなさぬ ゆくすゑを みつの川なみ

   たちかへり 心のやみを はるくべき 日よしの御影

   のどかにて 君をいのらむ よろづ代に 千世を重ねて

   まつが枝を 翼にならす つるの子の 讓るよはひは

   わかの浦や 今はたまもを かきつめて 例しもなみに

   みがきおく わが道までも たえせずば ことのは每の

   いろいろに のちみむ人も 戀ひざらめかも」。

 返歌

  「君をいのる心ふかくばたのむらむたえてはさらに山川の水」。

新院ものどかにおはしますまゝに、御歌をのみよませたまへど、萬の事もていでぬ御本性にて、人々など集めて、わざとあるさまには好ませ給はず。建保の頃內々百首の御歌詠み給へりしを、家隆の三位又定家の治部卿の許などへ、「いふかひなきちごのよめる」とて遣して見