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   たちかへるべき」。

 返歌

  「さりともとおもふ心ぞなほふかきたえでたえゆく山川の水」。

定家の中將、折ふし御まへにさぶらひければ「この返しせよ」とてさしたまはするに、いと疾く書きて御覽ぜさせけり。

  「ひさかたの あめつち共に かぎりなき 天つ日つぎを

   ちかひてし 神もろともに まもれとて 我がたつ柚を

   いのりつゝ むかしの人の しめてける 峯のすぎむら

   いろかへず 幾としどしを へだつとも 八重のしら雲

   ながめやる みやこの春を となりにて 御法のはなも

   おとろへず 匂はむものと 思ひおきし すゑばの露の

   さだめなき かやが下葉に みだれつゝ 元のこゝろの

   それならぬ うき節しげき くれたけに なくねをたつる

   うぐひすの ふるすは雪に あらしつゝ 跡絕えぬべき

   たにがくれ こりつむ嘆き しひしばの しひて昔に

   かへされぬ 葛のうら葉は うらむとも 君はみかさの

   やまたかみ 雲ゐのそらに まじりつゝ 照る日を代々に