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  「しぐるゝたびに色やかさなる」

とつけたりけるも、後までほめあはれ侍りけり。かやうなること多く侍りけり。その越後は、「さこそはかりの人はつらけれ」といふうたなどこそ、やさしくよみて侍りけれ。かやうなること數しらずこそきこえ侍りしか。

     ふししば

大將殿年若くおはして、何事もすぐれたる人にて、御心ばへもあてにおはしき。昔はかゝる人もやおはしけむ。この世にはいとめづらかに、かくわざと物語などに作りいだしたらむやうにおはすれば、やさしくすきずきしき事多くて、これかれ袖よりいろいろのうすやうにかきたる文のひき結びたるが、なつかしき香したる、二つ三つばかりづゝ取り出だして、常にたてまつりなどすれば、これかれ見給ひて、あるは歌よみ、色好む君だちなどに見せあはせ給ひて、この手はまさりたり、歌などもとりどりにいひあへり。あるは見せ給はぬもあるべし。また兵衞のかみや少將たちなど參り給へば、かたみに女のことなどいひあはせつゝ、雨夜のしづかなるにも語らひ給ふ折もあるべし。月あかき夜などは、車にて御隨身ひとりふたりばかり、何大夫などいふ人ともにかはるがはるかちよりあゆみ、御車に參りかはりつゝ、ふるき宮ばら、あるは色好む所々にわたり給ひつゝ、人にうちまぎれて遊びたまふに、びは笙のふえなどは人もきゝしりなむとて、ことひき、笛などぞし給ひける。ある折は歌よむ御だちまうでかよひける中に、ほいなかりけるにや、女、