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るなるべし。この宮たちおやの御子におはしませば、ことわりとは申しながらなべてならぬ御姿なむおはしますなる。たれもと申しながら、院の御姉におはしますなる女院こそすぐれて、おはしますさま〈れイ〉は並ぶ御かたがたかたくおはしますなるに、今の皇后宮にや、いづれにかおはしますらむ、參らせ給へりけるに、人の見くらべまゐらせけるこそ、とりどりにいとをかしく見えさせ給ひけれ。女院はしろき御ぞ十にあまりて重なりたるに、菊のうつろひたる小袿白き二重おり物のうはぎたてまつりて、三尺の御几帳のうちにゐさせ給へりけるに、皇后宮は、うへ赤いろにてしたざま黃なるはじもみぢの、十ばかり重なりたるに、うはぎにおなじ色に、やがて濃きえび染めの小袿の色々なる紅葉うち散りたる、ふたへ織物たてまつりたりけるを、見參らせたる人の語りけるとなむ。さて此の大炊の御門の右のおとゞのをのこ君は、太郞にては、三位の中將とまうしゝ宮たちの同じ御はらにおはする、大納言實定と申すなり。つかさも辭し給ひてこもり給へるとかや。さばかりの英雄におはするに、人をこそ超え給ふべきを、人に超えられ給ひければ、位にかへて超えかへし給へる、いとことわりと聞こえ侍り。詩なども作り給ひ歌もよくよみ給ふとぞ。御聲などもうつくしうておやの御あとつぎ給ひて、御神樂の拍子などもとり給ひ、今樣なども能く謠ひ給ふなるべし。こもり給へるもあたらしくはべることかな。次に三位の中將實家と申すなるは、藏人の頭より宰相になり給ひたらむにも、なかなかまさりてなべてならず聞こえはべり。大和ごとなどよくひきたまひ、御聲もすぐれて、これも今樣神樂うたひたまふときこえ給ふ。この御弟に頭の中