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ておほかりけるほどに、みかどもまたかくれさせ給ひ、ひだりのおとゞもうせ給ひてとしふるほどに、二條のみかどの御とき、あながちに御せうそこ有りければ、ちゝおとゞにもかたがたまうしかへさせたまひけれども、しのびたるさまにてまゐらせたてまつりたまへりけるにむかしの御すまひもおなじさまにて、くもゐの月も、ひかりかはらずおぼえさせたまひければ、

  「思ひきやうきみながらにめぐりきて同じ雲ゐの月を見むとは」

とぞ、思ひかけず傳へうけ給はりし。かやうに聞こえさせ給ひしほどに、みかども亦かくれさせ給ひて、よも心細くおぼえさせ給ひけるに、例ならずおはしませばなどきこえて、御ぐしおろさせ給ひける。御とし廿五六ばかりの御ほどに、おはしけるにやとぞ聞こえさせ給ひし。この宮何事もえんなるかたなさけ多くおはしまして、御手うつくしうかゝせたまふ。繪をさへなべての筆だちにもあらずなむおはしますなる。またほに出でゝ、こと琵琶などひかせ給ふことは聞こえさせ給はねど、優れたる人に劣らせ給はず、物のねも能くきゝしらせ給ひたるとかや。御せうとたち參り給ひたるにも、御帳おましなどこそあらめ、さぶらふ人々まで、よろづめやすく、もてつけたる樣にて、人參るとて今更に臺盤所とかくひきつくろひ、御几帳おしいでなどせで、かねて用意やあらむ、心にくゝぞおはしますなる。故左のおとゞも、中にとりわきて御心につかせ給ふとてぞ、御子に養ひ申させたまひける。かやうになさけ多く、おはしますことをや聞かせ給ひけむ。二條の院の御時もあながちに御けしき侍りけ