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達部にてぞおはしける。四位し給ひて、前の少納言にて、いつとなくおはしければ、おやの春宮の大夫殿は「身のざえなどもあり。よき者にてあるに、口をしく」とのみ歎き給ひけるに、うせ給ひて後、中辨にも藏人の頭にもなり給ひければ、「身の時なかりしをのみ見え奉りて」とぞ、思ひ出でつゝのたまはせける。おやの御病ひのほどなども、まろぶしにて、常はあつかひきこえ給ひけるに、うせ給ひてのち、基俊の君とぶらひにおはして梅の枝にむすびつけられける、

  「むかし見しあるじがほにて梅がえの花だにわれに物語せよ」

と侍りければ、このおとゞの御かへし、

  「ねにかへる花の姿のゆかしくは唯このもとを形見とは見よ」

とぞ侍りける。弟の左衞門の督より下﨟にて頭にてならび給へるに、頭の中將は上﨟にておはしけれど、この兄はざえもおはし、命も長くて、おほきおとゞまでいたり給へる、いとめでたし。院くらゐにおはしましゝ時、內宴行はせ給ふに、詩作りて參らむとし給ふを、御子の內のおとゞは、「さらで侍りなむ。年もあまり積もり給ひ、御ありきも叶ひ給はぬに、見苦し」と諫め申し給ひければ、中の院入道おとゞに「內大臣かく申し侍るは、いかゞ」と申し合せ給ひければ、「かならず參らせ給ふべきことなり。おぼろげに侍らぬことなるに、みかどの御をぢにおはしまして、おほきおとゞのまゐらせ給はざらむ、くちをしく侍り」など侍りければ、うまごの實長の大納言の、宰相の中將と申しゝに、かゝりてこそ參り給ひけれ。御ぐしおろし