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ふふみ、奈良の僧どもに、尋ねさせ給ふとかや聞こえき。笙の笛をぞ、御遊びには吹かせ給ふときこえ給ひし。御手かゝせ給ふ事をぞ、わざと書きやつさせ給ひけるにや、兄の殿に、いかにも劣らむずれば、などおぼしたりけるを、法性寺殿は、「われは詩も作るやうに、覺ゆるものを、さては詩をぞ作らるまじき」なとぞ仰せられけるとかや聞こえ侍りし。法成寺修理せさせ給ふ。塔の燒けたる作らせ給ひて、すがやかに、いとめでたく侍りき。日記など博くたづねさせ給ひ行はせ給ふことも、古き事をおこし、上達部の着座とかし給はぬをも、皆催しつけなどして、おほやけわたくしにつけて、何事もいみじく、嚴しき人にぞおはせし。道にあふ人、きびしく耻ぢがましきこと多く聞こえき。公事おこなひ給ふに付けて、遲く參る人、さはり申す人などをば、家燒き毀ちなどせられけり。奈良に濟圓僧都と聞こえし名僧の公請に障り申しければ、京の宿房毀ちけるに、山に忠胤僧都と聞こえしと、たはぶれがたきにて、みめ論じて、もろともに、「われこそ鬼」などいひつゝ、歌よみかはしけるに、忠胤これをきゝて、濟圓がりいひつかはしける、

  「誠にや君がつかやを毀つなる世にはまされるこゝめ〈ろイ〉有りけり」。

返し

  「やぶられてたちしのぶべき方ぞなき君をぞ賴むかくれ簑かせ」

とぞきこえ侍りける。又女怨ぜさせ給ふこともあらあらしくぞ聞こえはべりける。いはひをなどいふ、深き色ごのみとかや思はせ給ひけるに、よる俄におはしたりければ隱れて、思ひ