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なる齡を契るといふ題にて上達部束帶にて、殿よりはじめてまゐり給ひけり。まづ御あそびありて、關白殿ことひき給ふ。花園のおとゞ、その時右大臣にて琵琶ひき給ふ。中の院の大納言笙のふえ、右衞門の佐季兼俄に殿上にゆるされて篳篥仕うまつりけり。拍子は中の御門大納言宗忠、笛は成通實衡などの程にやおはしけむ。季成の中將、和琴などぞきゝ侍りし。序は堀川の大納言師賴ぞかき給ひける。講師は左大辨實光、御製のは誰れにか侍りけむ。常の御歌どもは、朝夕の事なりしに、つねの御製などきこえ侍りしに、珍らしくありがたき御歌ども多くきこえ侍りき。遠く山の花をたづぬといふ事を、

  「たづねつる花のあたりになりにけり匂ふにしるし春の山風」

などよませ給へりしは、世の末にありがたしとぞ人は申し侍りける。まだ幼くおはしましゝ時、

  「こゝをこそ雲の上とは思ひつれ高くも月のすみのぼるかな」

などよませ給へりしより、かやうの御歌のみぞおほく侍るなる。これらおのづから傳へ聞こえ侍るにこそあれ。天承二年三月にや侍りけむ。臨時客せさせ給ひき。臨時の祭の試樂のさまになむ侍りける。淸凉殿のみすおろして孫庇に御倚子たてゝ、みかど御直衣にておはします。北の廊の立蔀とりのけて、御簾かけて、きさいの宮の女房うちいでの衣さまざまに出だされたり。二間には中宮おはします。左右の舞人かさねのよそひして、月華門に集まれり。樂の行事、重通季成の中將ぞうけ給はりてせられける。春のしらべ、先は吹きいだして、春の庭