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給ひて、御あそびありて、上達部の座に、御かはらけたびたびすゝめさせ給ひて、おのおの歌たてまつられ侍りける。序は花園のおとゞぞかき給ひけるとなむうけ給はり侍りし。新院の御製など集にいりて侍るとかや。女房のうたなどさまざまに侍りけるとぞ聞き侍りし。

  「よろづ代のためしと見ゆる花の色をうつしとゞめよ白河の水」

などぞよませ侍りけると聞き侍りし。御寺の花、雪のあしたなどのやうに咲きつらなりたる上に、わざとかねて外のをも散らして、庭にしかれたりけるにや、牛のつめもかくれ車のあとも入るほどに花つもりたるに、こずゑの花も雪のさかりにふるやうにぞ侍りけるとぞ、傳へうけ給はりしだに、思ひやられ侍りき。まいて見給へりけむ人こそおもひやられ侍れ。その後いづれの年にか侍りけむ、雪の御幸せさせ給ひしに、たびたび晴れつゝ、けふけふと聞こえけるほど、俄に侍りけるに、西山船岡のかた、御覽じめぐりて、法皇も院も都のうちには、ひとつ御車にたてまつりて、新院御直衣に、くれなゐのうち御ぞいださせ給ひて、御馬にたてまつりけるこそ、いとめづらしく繪にもかゝまほしく侍りけれ。二條の大宮の女房、いだし車に、菊もみぢの色々なる衣どもいだしたるに、うへしたに、白き衣をかさねて、縫ひあはせたれば、ほころびは多く、ぬひめはすくなくて、あつきぬのわたなどのやうにて、こぼれいでたるが、菊紅葉のうへに、雪のふりおけるやうにて、五車たてつゞけ侍りけるこそいと見所おほくはべりけれ。このみかど、御心はいといたく好かせ給ふ事はなくて、御心ばへうるはしく、御みめも淸らに、功德の道たうしも御祈りをのみせさせ給ひき。御笛をぞ、えな