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されて、紅のうちぎぬ、櫻萠黃のうはぎ、赤色の唐衣に、しろがねをのべて、くわんの紋おかれて地ずりの裳にも、かねをのべて、洲濱鶴龜をしたるに、裳の腰にもしろがねをのべて、うはざしは、玉をつらぬきてかざられ侍りける。よしだの齋宮の御はゝや、乘り給へりけむとぞ聞こえ侍りし。又いだし車十輛なれば、四十人の女房おもひおもひに裝ひども心を盡して、けふばかりは制もやぶれてぞ侍りける。あるは五つにほひにて、紫紅、もえぎ、山吹、すはう廿五重ねたるに、うちぎぬ、うはぎ、裳、唐衣、皆かねをのべて紋におかれ侍りけり。あるは柳さくらをまぜかさねて、上はおりもの、うらはうちものにして、裳の腰には、錦に玉をつらぬきて「玉にもぬける春の柳か」といふ歌、「柳さくらをこきまぜて」といふ歌の心なり。裳はえび染を地にてかいふをむすびて、月のやどりたるやうに、鏡を下にすかして、「花のかゞみとなるみづは」とせられたり。からぎぬには日をいだして「たゞはるの日にまかせたらなむ」といふ歌の心なり。あるは唐衣に錦をして、櫻の花をつけて、うすき綿を、あさぎに染めて上にひきて、「野べの霞はつゝめども」といふ歌の心なり。袴もうちばかまにて花をつけたりけり。このこぼれてにほふは、七の宮など申す御母のよそひとぞきゝ侍りし。御車ぞひの狩衣はかまなど、いろいろの紋押しなどして、かゞやきあへるに、やりなはといふものもあしつをなどにや、より合せたる。色まじはれるみすの掛け緖などのやうに、かな物ふさなどゆらゆらとかざりて、何事も常なくかゞやきあへり。攝政殿は御車にて、隨身などきらめかし給へりしさま、申すもおろかなり。法勝寺にわたらせ給ひて、花御覽じめぐりて、白河殿にわたらせ