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りとも聞こえざりし。今ひとりの御めのとの、知綱のぬしの御母にていますかりしは、日野三位のむすめにて、世おぼえも殊の外に聞こえ給ひしかども、みかどの五つにおはしましゝ年、かのめのと、かくれられにしかば、二位のみ並びなくおはすめり。宿世かしこければあしき日もさはりなかるべし。しかあらざらむ人は、いかゞ其のまねもせむ。從二位親子の草子合とて、人々よき歌どもよみて侍るも、いとやさしくこそ聞こえ侍りしか。このみかどは、御心ばへ、たけくもやさしくもおはしましけるさまは、後三條の院にぞ似たてまつらせ給へりける。さればゆゝしく事々しきさまにぞ、好ませ給ひける。白河の御寺もすぐれておほきに、やおもてこゝのこしの塔など建てさせ給ひ、百體の御佛など常は供養せさせ給ふ。百臺の御あかしを、一度に、ほどなくそなふる、ふりうおぼしめしよりて、前栽のあなたに、物の具かくしおきて、あづかり百人めして、一度にたてまつらせ給ひけるに、事おこなひける人、心も得で少々まつともしなどしたりけるをも、むつからせ給ひて、さらに一度にともされなどせられけり。鳥羽などをも廣くこめて、さまざま池山など、こちたくせさせ給へり。後三條の院は五壇御修法せさせ給ひても、「國やそこなはれぬらむ」など仰せられ、圓宗寺をもこちたく造らせ給はず。漢の文帝の露臺造らむとし給ひて、國堪へじなどいひてとゞめ給ひ、女御愼夫人には、裾もひかせず。御帳のかたびらにも、あやなきをせられける御心なるべし。おのおの時に從ふべきにやあらむ。白河の院は御弓なども上手にておはしましけるにや。「いけの鳥を射たりしかば、故院のむつからせ給ひし」など、仰せられけるとかや。まだ東宮のわか宮