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はしましゝ、後一條院の姬宮なり。神無月も過ぎて、みかど今年ぞ豐のみそぎせさせ給ふ。正月十六日御いみの月とて、踏歌の節會もなし。十月に關白殿のおとうとの右の大臣女御たてまつりたまふ。大二條殿と申しゝ御事なり。同じき四年十一月に、殿上の歌合せさせ給ひき。村上の御時、花山院などの後、めづらしく侍るに、いとやさしくおはしましゝにこそ。能因法師の「いはねの松も君がため」と一番の歌によみて侍る。このみちのすきもの時にあひて侍りき。「たつたの川のにしきなりけり」といふ歌も、此のたびよみて侍るぞかし。五年しはす關白殿のみむすめ女御に參り給ふ。四條の宮と申しゝ御事なり。六年二月十日、后にたち給ふ。皇后宮と申しき。もとの后は、皇太后宮にあがり給ひき。さつき五日殿上のあやめ根あはせせさせ給ひき。その歌ども、歌合の中に侍るらむ。后の宮さとにおはしましける時、良暹法師「もみち葉のこがれて見ゆる御ふねかな」といふ連歌、殿上人の付けざりけるをも、みかどの御耻におぼしめしたりけるも、いとなさけおほくおはしましけるにこそ。九月九日菊の宴せさせ給ひて、「菊ひらけて水の岸かうばし」といふ題を作らせ給ひけるとぞ聞こえ侍りし。七年神無月のころ、釣殿にて御あそびあり。文つくらせ給ひけるとそきこえ侍りし。かやうの御あそびつねの事なるべし。

     こがねのみのり

いづれの年にか侍りけむ。九月十三夜高陽院の內裏におはしましけるに、瀧の水音すゞしくて、岩まの水に月やどして御覽せさせ給ひて、よませたまひける、