Page:Kokubun taikan 07.pdf/201

提供:Wikisource
このページは校正済みです

  「今はたゞくもゐの月をながめつゝめぐりあふべきほどもしられず」。

この宮に女宮二所おはします。齋宮齋院に居させたまうて、いとつれづれに宮だちこひしく、世もすさまじくおぼしめすに、五月五日にうちより、

  「もろともにかけしあやめの根をたえてさらにこひぢに惑ふ頃かな」。

御かへし、

  「かたがたにひき別れつゝあやめ草あらぬ根をやはかけむと思ひし」。

殿の御もてなし、かたはらいたくわづらはしくて、久しく入らせ給はず。されどこの宮おはしますこそはたのもしき事なれど、今の宮に男みこうみ奉り給ひては、うたがひなきまうけの君と思しめしたることわりなり。よき女房おほく、出羽少將、小辨、小侍從などいひて、手かき歌よみなど華やかにていみじうて侍はせたまふ」」。


大鏡