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はるにたとしへなき歌よみなりかし。歌いみじうとも折ふしきや〈りイ〉めを見て仕うまつるべきなり。けしうあらぬ歌よみなれど、からく劣りにしことぞかし」」といふ。さぶらひこまやかにうち笑ひて、「いにしへのいみじき事どもの侍りけむはしらず、なにがし物覺えて不思議なりしことは、三條院の大甞會の御禊のいだし車、大宮皇太后宮より奉らせ給へりしぞありしや。大宮の一の車の口のまゆにかうなうかけられて、空だき物たかれたりしかば二條の大路のつふとけぶりみちたりりしさまこそめでたく、今にさばかりのみもの又なし」」といへば、世繼、「「しかしか、いかばかり御心に入れていとみさせ給へりしかば、それに女房の御心のおほけなさはさばかりの事を簾垂おろして渡りたまひしはとよ。あさましかりし事ぞかしな。ものけたまはる口に乘るべしと思はれけるが、しりに押し下され給へりけるとこそ承りしか。げに女房のからきことにせらるなれども、しうの思しめさむ所もしらず、をとこはえしかあるまじくこそ侍れ。大かたその宮には心おぞましき人のおはするにや。一品宮の御裳着に、入道殿より玉を貫きいはほをたて水をやり、えもいはず調ぜさせ給へる裳唐ぎぬをまづ奉らせ給ひて「中にもとりわきて思しめさむ人にたまはせよ」と申させたまへりけるをさりともと思ひ給ひける女房のたまはらでやがてそのなげきに病づきて七日といふにうせ給ひにけるを、いとさまで覺え給ひけむ罪ふかく、ましていかにものねたみの心ふかくいましけむ」」などいふぞあさましくいかでかく萬の事御簾の內まで聞きたらむと恐しく、かやうなるおんなおきなゝどのふる事するはいとうるさく、聞かまうきやうにこそ覺ゆるに、此は唯昔