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かしこく又かうこそはありけめと見えて舞はせ給ふに、御祿をこれはいとしたゝかに御肩にかけさせ給ひて、今一かへりえもいはず舞はせ給へりし。今日は又かゝるべかりける業かなとこそ見え侍りしか。御師の陵王は必ず御祿はすてさせ給ひてむぞ、同じ樣にせさせ給はむめなれたるべければ、さまかへさせ奉り給へるなりけり。心ばせまさりたりとこそいはれ侍りしか。女院かうむり給はせしは大夫殿をいみじくかなしがり申させ給へばとぞ。陵王の御師は賜はらでいとからかりけり。それにこそ北の政所少しむつがらせ給ひけれ。さて後にこそ給はすめりしか。かたのやうに舞はせ給ふとも、あしかるべき御年の程にもおはしまさず、わろしと人申すべくも侍らざりしに、二所ながらこの世の人と見えさせ給はで、天童などのおりきたるとこそ見えさせ給ひしか。又この大宮の大原野の行啓はいみじく侍りし事ぞや。雨のふりしこそいと口をしう侍りしことよ。舞ひ人にたれたれそれぞれの君達など數へて一の舞はこの關白殿の君とこそはまはせ給ひしか。試樂の日搔練襲の下がさね、黑半臂奉りたりしはめづらしく侍りしものかな。わきあけに人のき給へりしは、まだ見侍らざりしば、行啓には入道殿のなにがしといひし御馬に奉りて、御隨身四人と我もらんもんにあげさせ給へりしはきやうきやうしかりしものかな。公忠がすこしひかへつゝ所おき申しゝを制せさせ給ひしかば、猶少し恐れ申すまでこそありしか。かしこく京の程は雨も降らざりしぞかし。閑院の太政大臣殿の西の七條より歸らせ給ひしこそ入道殿いみじう恨み申させ給ひけれ。堀川左大臣殿は御社まで仕うまつらせ給ひて御ひきいで物御馬ありき。枇杷殿の宮中