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給ふ度ごとに、贈物をせさせ給ふ。御乳母も饗應し給ひし君ぞかし。この頃三位しておはすめるは、この君を父おとゞ「あなかしこ、我がなからむ世にあるまじきわざをせず、又みすてがたしとてものおぼえぬみやうぶうちして、我がおもてませて、いでやさありしかどかゝるぞかしと人にいひのけてせさすなよ。世の中にありわびなむきはゝ出家すばかりなり」となくなくいひ仰せ給ひけるに、この君當代の東宮にておはしましゝ折の亮になり給ひて、いとめやすき事と見奉りしほどに、春宮亮通雅の君とていとおぼえおはしきぞかし。それもいかゞしけむ、位につかせ給ひし後に藏人の頭にもえなり給はず、坊官の勞に三位ばかりし給ひて中將をだにかけ給はずなりにしこそいとかなしかりし事ぞかし。あさましく思ひかけぬ事どもかな。この君故帥の中納言惟仲の女とぞすみ給ひて、男一人うませ給へりしは法師にて明尊僧正の御房にこそおはすめれ。女君いかゞ思ひ給ひけむ、みそかに逃げて今の皇太后宮にこそ參りて、大和宣旨とておはしたまふなれ。されば年ごろのめことやはたのむべかりける。なかなかそれしもこそあなづりてをこがましくもてなしけれ。あはれ翁が童部のさやうに侍らましかば、白髮をもそりて鼻をもかきおとし侍りなまし。よき人と申すものはいみじからぬなのをしければ、ともかくもし給はぬにこそあめれ。さるはかの君さやうにしれ給へる人かは。たましひはわき給ふ君をば、師殿はこの內の生れさせ給へりし七夜に和歌の序題かゝせ給へりしぞかし。なかなか無心のことかな。本體は參らせ給ふまじきを、それにさし出で給ふより、多くの人のめをつけ奉り、いかにおぼすらむ、なにせむに參り給へるぞとの