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ば、「いと不便なる御事かな。えこそ承らざりけれ。いかやうなる御心ちにぞ。いとだいたいしき御事にもあるかな」といみじう驚かせ給ひて、「誰を召したるに參らぬぞ」と委しく問はせふ。なにがし阿闍梨をこそは奉らせ給ひしか。されど世のすゑは人の心も弱くなりにけるにや、惡しくおはしますなど申しゝかど、元方の大納言のやうにやは聞えさせ給ふる。又入道殿猶すぐれさせ給へる威のいみじきに侍るめり。老の波にいひすごしもぞし侍る」」とけしきだちてこの程はうちさゝめく。「「源大納言重光卿の御女のはらに女君二所男君三所おはせしが、この君だち皆おとなび給ひて、女君は后がねとかしづき奉り給ひしほどに、さまざまおぼしゝ事どもたがひて、かく御病さへおもり給ひにければ、この姬君達をすゑならべてなくなくのたまひける。「年來佛神にいひじく仕うまつりつれば何事もさりともとこそ賴み侍りつれど、かくいふかひなきしにをさへせむことの悲しさ。かく知らましかば君達をこそ我よりも先にうせ給ひねといのり思ふべかりけれ。おのれ死なば、いかなるふるまひありさまをし給はむずらむと思ふがかなしく人わらはれになるべき事」といひ續けて泣かせ給ふ。「怪しきありさまをもしし給はゞなき世なりとも必ず恨み聞えむ」とぞ母北の方にもなくなく遺言し給ひけるかし。その君達大姬君は高松殿の春宮大夫殿の北の方にて、あまたの君だちうみ續けておはすめり。それはあしかるべき事ならず。お一所は大宮に參りて、帥殿の御方とていとやんごとなくて侍ひ給ふめりとこそはおぼしかけぬ御ありさまなめれ。あはれなめるかし。男君は松君とて生れ給ひしより祖父おとゞいみじきものにおぼしむかへ奉り