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ゞ人にならせ給ひぬれば、御果報の及ばせ給はぬにや、さやうの御みもちに久しくは保たせ給はぬとも定め申すめりき。そのほどは夢ときもかんなぎも、かしこきものどもの侍りしぞとよ。堀川の攝政のはやり給ひし時に、この東三條殿は御つかさどもとゞめられさせ給ひて、いとからくおはしましゝ時に、人の夢に、かの堀川院より矢をいと多くひんがしざまに射るをいかなるぞと見れば、東三條殿に皆落ちぬと見えけり。よからず思ひ聞えさせ給へる方より矢おはせ給ふはあしき事あらむと思ひて殿にも申しければ、恐れ給ひて夢ときに問はせ給ひければ、「いみじうよき御夢なり。世の中のこの殿にうつりて、あの殿の人のさながら參るべきが見えたるなり」と申しけるが、あてざらざりしことかは。又その頃よきかんなぎ侍りき。賀茂の若宮のつかせ給ふとてふしてのみ物を申しゝかば、うちふしのみことぞ世ひとつけて侍りし。大入道殿召して物問はせ給ひけるに、いとかしこく申しければ、さしあたりたること、過ぎにしかたとは皆さいふことなれば、しか思し召しけるに、かなはせ給ふ事どものいでくるまゝには、後々には御さうぞくたてまつり御かうぶりせさせ給ひて御膝に枕せさせてぞものは問はせ給ひける。それに一事として後々の事申しあやまたざりけり。さやうに近く召しよするに、いふかひなき程のものにもあらで、少しおもと程のきはにてぞありける。この殿法興院におはしますことをぞ心よからぬ所と人はうけ申さゞりしかど、いみじう興ぜさせ給ひて聞きもいれで渡らせ給ひて程なくうせおはしましにき。御物忌の折渡らせ給はむとて、おはしましてはいかゞあると御うらをせさせおはしまして、そのたび