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馬の頭、少將などにて皆出家しつゝうせ給ひにき。この馬の入道の御をのこゞなり、今の右京の大夫は。この閑院の大將殿は後にはこの君達の母をばさりて批把の大納言延光の卿のうせ給ひにし後、その上の年老いてかたちなどわろくおはしけるにや、殊なる事聞え給はざりしをぞすみ給ひし。とくにつき給へるとぞ世の人申しゝ。さて世おぼえも劣り給ひにしぞかし。もとのうへ御かたちもいとうつくしく、人のほどもやんごとなくおはしましゝかど、不合におはすとて、かゝる今北の方をまうけて去り給ひにしぞかし。この今のうへの御もとには女房卅人ばかり裳唐衣きせて、えもいはずさうぞきてすゑならべて、しつらひありさまより始めてめでたくしたてゝかしづき聞ゆる事かぎりなし。大將ありきて歸り給ふをりは、冬は火おほらかにうづみて、たきものおほきにつくりて、ふせごうちおきて、けに着たまふ御ぞをば暖かにてぞ着せ奉りたまふ。すびつにしろがねのひさげ二十ばかりをすゑて。さまざまの藥をおき並べてまゐり給ふ。又寐たまふ疊のうはむしろに綿入れてぞしかせ奉らせ給ふ。寢給ふ時には大きなる熨斗もちたる女房三四人ばかりいできて、かのお殿籠るむしろをば暖二のしなでゝぞ寢させ奉り給ふ。あまりなる御用意なりしかば大方のしつらひありさま、女房のさうぞくなどはめでたけれども、この北の方はねり色のきぬの綿厚きふたつばかりに、白袴うちきてぞおはしける。年四十よばかりなる人の、大將にはおやばかりぞおはしける。色黑くて額に花がたうちつきて、髮ちゞけたるにぞおはしける。御かたちのほどを思ひしりて、さまにあひたるさうぞくとおぼしけるにや。誠にその御さうぞくこそかたちに