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兵部卿ありあきら、この親王の御女の腹の君、中宮の御ひと腹にはおはせず。これは又閑院左大將あさ光と申して、父おとゞのおはしましゝ折、このかみの大臣宰相にておはしける程はこの殿は中納言にておはしける、ひきこされ給ひけるぞめでたく。その頃などすべていみじかりし御世覺えにて、かたちも心もすぐれ給へり。御まじらひの程など殊の外にきらめき給ひき。やなぐひの水晶の筈もこの殿の思ひよりしいで給へるなり。なにごとの行幸に仕うまつり給へりしに、このやなぐひ負ひ給へりしは、朝日の光にかゞやきてさるめでたき事やは侍りし。今はめなれにたれば珍らしからず人も思ひて侍るぞ。何事につけても華やかにもていでさせ給へりし殿の、父どのうせ給ひにしかば、世の中おとろへなどして、御病もおもくて、大將も辭し給ひてしこそ口をしかりしか。さて唯藤大納言とぞ聞えさせし。和歌などこそいとかしこく遊ばしゝか。四十五にてうせ給ひにき。北の方には貞觀殿の內侍のかみの御腹のしげあきらの式部卿の宮の御中姬君ぞおはせしかし。その御腹に男君三人、女君のかがやくごとなるおはせし。花山院の御時に參らせ給ひて一月ばかりいみじう時めかせ給ひしを、いかにしてける事にかありけむ。まうのぼり給ふこともとゞまり御門も渡らせ給ふこと絕えて御文だに見え聞えずなりにしかば、一二月さぶらひわびてこそは出させ給ひにしか。又さあましかりし事やはありし。御かたちなどの世のつねならずをかしげにて、おぼし歎く見奉り給ふ父の大將御せうとの君だちいかゞはおぼしけむ。その御一つ腹の男君三所太郞君は今の藤中納言ともつねの卿におはすめり。人に重く思はれ給へり。二郞三郞君は