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ろひたる姿どもの、罪ゆるされたるもなきを見渡され給ひて、姬君、我もやうやう盛り過ぎぬる身ぞかし、鏡を見ればやせやせになりもてゆくを、おのがじゝはこの人どもゝ、われあしとやは思へる、うしろではしらず顏にひたひ髮をひきかけつゝ、色どりたる顏づくりをよくしてうちふるまふめり、我が身にては、まだいとあれがほどにはあらず、目も鼻もなほしとおぼゆるは心のなしにやあらむとうしろめたくて、見出して臥し給へり。恥かしげならむ人に見えむことはいよいよかたはらいたく、今一年二年あらば衰へまさりなむ、はかなげなる身の有樣をと、御手つきのほそやかにかよわくあはれなるをさしいでゝも世の中を思ひつゞけ給ふ。宮はありがたかりつる御いとまの程をおぼしめぐらすに、猶心やすかるまじきことにこそはといと胸ふたがりておぼえ給ひける。大宮の聞え給ひしさまなど語り聞え給ひて、「思ひながらとだえあらむを、いかなるにかとおぼすな。夢にてもおろかならむにかくまでも參りくまじきを、心のほどやいかゞと疑ひて、思ひ亂れ給はむが心苦しさに、身を捨てゝなむ。常にかくはえ惑ひありかじ。さるべきさまにて近くわたし奉らむ」といと深く聞え給へど、絕え間あるべくおぼさるらむは、おとに聞きし御心の程しるきにやと心おかれて、我が御ありさまからさまざま物歎しくてなむありける。明けゆくほどの空に妻戶押しあけ給ひて諸共にいざなひ出でゝ見給へば、霧わたれるさま所からのあはれ多くそひて、例のしばつむ船のかすかに行きかふ、跡の白浪めなれずもあるすまひのさまかなと、色なる御心にはをかしくおぼしなさる。山の端の光やうやう見ゆるに、女君の御かたちのまほに美くし