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のやうに、ひがひがしき心のたぐひやは又世にあべかめる、それだに猶動きそめぬるあたりはえこそ思ひたへねと思ひ居給へり。さぶらふかぎりの女房のかたち、心ざまいづれとなくわろびたるなくめやすくとりどりにをかしき中にも、あてにすぐれて目にとまるあれど、更に更に亂れそめじの心にていときすくにもてなし給へり。殊更に見えしらがふ人もあり。大方恥しげにもてしづめ給へるあたりなれば、うはべこそ心ばかりもてしづめたれ、心々なる世の中なりければ、色めかしげにすゝみたるしたの心もりて見ゆるもあるを、さまざまにをかしくもあはれにもあるかなと、立ちても居ても唯常なき有樣を思ひありき給ふ。かしこには、中納言殿の、ことごとしげにいひなし給へりつるを、夜更くるまでおはしまさで御文のあるを、さればよと胸つぶれておはするに、夜中近うなりてあらましき風のきほひにいともなまめかしく淸らにて匂ひおはしたるも、いかゞおろかにおぼえ給はむ。さうじみも聊かうち靡きて思ひ知り給ふことあるべし。いみじくをかしげにさかりと見えて、引きつくろひ給へるさまは、まして類ひあらじはやとおぼゆ。さばかりよき人をおほく見給ふ御目にだに、けしうはあらずとかたちよりはじめて多くちかまさりしたりとおぼさるれば山里のおい人どもは、まして口つきにくげにうちゑみつゝ、「かくあたらしき御有樣を、なのめなるきはの人の見奉り給はましかばいかに口惜しからまし。思ふやうなる御すくせ」と聞えつゝ姬君の御心を、あやしくひがひがしくもてなし給ふを、もどきくちひそみ聞ゆ。盛り過ぎたるさまどもにあざやかなる花のいろいろ似つかはしからぬをさしぬひきつゝ、ありつかずとりつく