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ぞあやしく變りて、やうやう見顯はし給ひてあさましく心やましけれど、人たがへとたどりて見えむもをこがましく怪しと思ふべし、ほ意の人を尋ねよらむも、かばかり遁るゝ心あめればかひなくをこにこそ思はめとおぼす。かのをかしかりつる火影ならばいかゞはせむと覺しなるも、わろき御心淺さなめりかし。やうやう目さめていと覺えずあさましきに、あきれたる氣色にて、何の心ふかくいとほしき用意もなし。世の中をまだ思ひしらぬ程よりはさればみたるかたにてあえかにも思ひ惑はず、我とも知らせじとおもほせど、いかにしてかゝる事ぞと後に思ひ廻らさむも我が爲にはことにもあらねど、あのつらき人のあながちに世をつゝむもさすがにいとほしければ、度々の御方たがへにことづけ給ひしさまをいとよう言ひなし給ふ。たどらむ人は心得つべけれど、まだいと若き心地にさこそさしすぎたるやうなれど、えしも思ひわかず。憎しとはなけれど御心とまるべき故もなき心地して、猶かのうれたき人の心をいみじくおぼす。いづこにはひまぎれてかたくなしと思ひ居たらむ、かくしうねき人はありがたきものをとおぼすにしも、あやにくに紛れがたう思ひ出でられ給ふ。この人は何心なく若やかなるけはひもあはれなればさすがになさけなさけしく契りおかせ給ふ。「人知りたる事よりもかやうなるは哀も添ふこととなむ昔の人もいひける。あひ思ひ給へよ。つゝむ事なきにしもあらねば身ながら心にも得任すまじくなむありける。又さるべき人々も免されじかしとかねて胸痛くなむ。忘れで待ち給へよ」などなほなほしく語らひ給ふ。「人の思ひ侍らむ事の耻しきになむえ聞えさすまじき」と裏もなくいふ。「なべての人に知