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あり。「咲けるをかべに家しあれば」などひき返し慰めたるすぢなどかきまぜつゝあるを、取りて見給ひつゝほゝゑみ給へる、恥しげなり。筆さしぬらして書きすさみ給ふ程にゐざり出でゝ、さすがにみづからのもてなしはかしこまりおきてめやすき用意なるを、猶人よりは殊なりとおぼす。白きにけざやかな髮のかゝりの少しさばらかなる程に薄らぎにけるもいとゞなまめかしさ添ひてなつかしければ、新しき年の御さわがれもやとつゝましけれどこなたにとまり給ひぬ。猶おぼえことなりかしと、かたがたに心おきておぼす。南のおとゞにはましてめざましがる人々あり。まだ曙の程に渡り給ひぬ。かうしもあるまじき夜深さぞかしと思ふに、名殘もたゞならずあはれに思ふ。待ちとり給へるはたなまけやけしとおぼすべかめる心の中はかられ給ひて、「怪しきうたゝねをして若々しかりけるいぎたなさをさしも驚かし給はで」と御氣色とり給ふもをかしう見ゆ。殊なる御いらへもなければ、わづらはしくてそらねをしつゝ日高く大殿ごもりおきたり。今日は臨時客の事にまぎらはしてぞおもがくし給ふ。上達部みこ達など、例の殘りなく參り給へり。御遊ありて、引出物祿などになし。そこら集ひ給へるが我も劣らじともてなし給へる中にも、少しなづらひなるだに見え給はぬものかな。とりはなちてはいうそく多く物し給ふころなれど、御前にてはけおされ給ふわろしかし。何の數ならぬ下部どもなどだに、この院に參るには心づかひことなりけり。まして若やかなる上達部などは思ふ心など物し給ひて、すゞろに心げさうし給ひつゝ常の年よりも殊なり。花のか誘ふ夕風長閑に打ち吹きたるに、お前の梅やうやうひもときてあ