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我をば見知りたりや」とて顏をさし出でたり。この女手を打ちて「あがおもとにこそおはしましけれ。あなうれしともうれし。いづくより參り給ひたるぞ。うへはおはしますや」といとおどろおどしくなく。わかものにて見なれし世を思ひ出づるに、隔てきにける年月數へられていとあはれなり。「まづおとゞはおはすや。若君はいかゞなり給ひにし。あてきと聞えしは」とて君の御ことははかなき世を思ふにあへなくもやいはむとてかけむもゆゝしくて言ひ出でず。「皆おはします。姬君もおとなに成りておはします。まづおとゞにかくなむと聞えむ」とて入りぬ。皆驚きて、「夢の心地もするかな。いとつらくいはむかたなく思ひ聞ゆる人にたいめんしぬべきことよ」とてこのへだてによりきたり。けどほくへだてつる屛風だつもの名殘なくおしあけてまづいひやるべきかたなく泣きかはす。おいびとはたゞ我が君はいかゞなり給ひにし。こゝらの年比夢にてもおはしまさむ所を見むと大願を立つれど遙なる世界にて風の音にてもえ聞き傅へ奉らぬをいみじく悲しと思ふに、老の身の殘りとゞまりたるもいと心憂けれどうち捨て奉り給へる若君のらうたくあはれにておはしますをよみぢのほだしにもて煩ひ聞えてなむまたゝき侍る」といひつゞくれば、昔そのをりいふかひなかりしことよりもいらへむかたなく煩はしと思へども「いでや聞えてもかひなし。御かたは早ううせ給ひにき」といふまゝに三人ながらむせかへりいとむつかしくせきかねたり。日暮れぬと急ぎたちてみあかしのことゞもしたゝめ出でゝ急がせば、なかなかいと心あわたゞしく立ちわかる。「もろともにや」といへどかたみにともの人のあやしと思ふべければこの介