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Page:Kokubun taikan 01.pdf/426

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く物し給ひしをいかでかあひ語らひ申さむと思ひ給へしかどもさる心ざしをも見せ聞えず侍りしほどにいと悲しくて隱れ給ひにしを、そのかはりにゐくわうに仕うまつるべくなむ心ざしをはげまして今日はいとひたぶるにしひてさぶらひつる。このおはしますらむ女君すぢことにうけ給はればいとかたじけなし。唯なにがしらが私の君と思ひ申していたゞきになむ捧げ奉るべき。おとゞもしぶしぶにおはしげなることは善からぬ女などもあまたあひ知りて侍るを聞しめし疎むなゝり。さりともすやつばらをひとしなみにはし侍りなむや。わが君をばきさきの位におとし奉らじものをや」などいとよげにいひつゞく。「いかゞは、かくのたまふをいとさいはひありと思ひ給ふるを、すくせつたなき人にや侍らむ、思ひ憚ること侍りていかでか人に御覽ぜられむと人知れず歎き侍るめれば心苦しう見給へ煩ひぬる」といふ。「更になおぼし憚りそ。天下に目つぶれ足をれ給へりともなにがしは仕うまつりやめてむ。國のうちの佛神は、おのれになむ靡き給へる」などほこり居たり。「その日ばかり」といふに、「この月はきのはてなり」など田舍びたることをいひのがる。おりていくきはに歌よまゝほしかりければ、やゝ久しう思ひめぐらして、

 「君にもしこゝろたがはゞ松浦なるかゞみの神をかけて誓はむ。この和歌は仕うまつりたりとなむ思ひ給ふる」とうち笑みたるも世づかずうひうひしや。あれにもあらねば返しすべくも思はねど、むすめどもによますれど「まろはまして物もおもえず」とて居たればいと久しきに思ひ煩ひてうち思ひけるまゝに、