Page:Kokubun taikan 01.pdf/421

提供:Wikisource
このページは校正済みです

給ふもいと若やかにつきせぬ御有樣の見所おほかるにいとゞ思ふやうなる御すまひにて聞えかよはし給ふ。大井の御方はかう方々の御うつろひ定りて數ならぬ人はいつとなく紛はさむとおぼして神無月になむ渡り給ひける。御しつらひことの有樣劣らずして渡し奉り給ふ。姬君の御ためをおぼせば、大方の作法もけぢめこよなからずいとものものしくもてなさせ給へり。


玉鬘

年月へだゝりぬれど飽かざりし夕顏をつゆ忘れ給はず、心々なる人の有樣どもを見給ひ重ぬるにつけてもあらましかばとあはれにくちをしくのみおぼし出づ。右近は何の人數ならねどなほそのかたみと見給ひてらうたきものにおぼしたれば、ふる人の數に仕うまつり馴れたり。須磨の御うつろひの程にたいの上の御方に皆人々聞えわたし給ひしほどよりそなたに侍ふ。心よくかいひそめたるものに女君もおぼしたれど、心のうちには故君ものし給はましかば明石の御方ばかりのおぼえには劣り給はざらまし、さしも深き御心ざしなかりけるをだにおとしあふさず取りしたゝめ給ふ御心ながさなりければ、まいてやんごとなきつらにこそあらざらめ、この御殿うつりの數の中にはまじらひ給ひなましと思ふに飽かず悲しくなむ思ひける。かの西の京にとまりし若君をだにゆくへも知らずひとへに物を思ひつ