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や」とひとりごちて打ち淚ぐみて居給へり。かの事を思ふならむといと心苦しうて宮もうち潛み給ひぬ。「男は口惜しききはの人だに心をたかうこそつかうなれ。あまりしめやかにかくな物し給ひそ。何かかう眺めがちに思ひ入れ給ふべき。ゆゝしう」とのたまふ。「何かは。六位など人のあなづり侍るめれば暫しの事とは思う給うれどうちへ參るも物憂くてなむ。故大臣おはしまさましかばたはふれにても人にはあなづられ侍らざらまし。物隔てぬ親におはすれどいとけゞしうさし放ちておぼいたればおはしますあたりにたやすくも參りなれ侍らず。ひんがしの院にてのみなむおまへ近く侍る。對の御方こそ哀に物し給へ。おや今一所おはしまさましかば何事を思ひ侍らまし」とて淚の落つるを紛はし給へる氣色いみじう哀なるに宮はいとゞほろほろと泣き給ひて「母に後るゝ人は程々につけてさのみこそ哀なれどおのづからすくせすくせに人と成りたちぬればおろかに思ふ人もなきわざなるを思ひ入れぬさまにて物し給へ。故おとゞの今しばしだに物し給へかし。限なきかげには同じことゝ賴み聞ゆれど思ふにかなはぬことの多かるかな。內のおとゞの心ばへもなべての人にはあらずと世の人もめでいふなれば昔に變ることのみまさりゆくに命長さもうらめしきに生ひさき遠き人さへかくいさゝかにても世を思ひしめり給へればいとなむよろづうらめしき世なる」とてなきおはします。ついたちにも大殿は御ありきしなければのどやかにておはします。良房のおとゞと聞えける古の例になずらへて白馬ひき節會の日はうちの儀式をうつして昔のためしよりもことそへていつかしき御有樣なり。二月の廿日餘朱雀院に行幸あ