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Page:Kokubun taikan 01.pdf/247

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され給へり。宮には、

 「松島のあまのとまやもいかならむすまの浦人しほたるゝころ。いつと侍らぬ中にもきしかた行くさきかきくらし、みぎはまさりてなむ」。ないしのかみの御許に例の中納言の君の私事のやうにて中なるに「つれづれと過ぎにし方の思う給へ出でらるゝにつけても、

  こりずまの浦のみるめもゆかしきを鹽燒くあまやいかゞ思はむ」。さまざま書き盡し給ふ言の葉思ひやるべし。大殿にも宰相の乳母にも、仕う奉るべき事なども書きつかはす。京にはこの御文所々に見給ひつゝ御心亂れ給ふ人々のみおほかり。二條院の君はそのまゝに起きもあがり給はず盡きせぬさまに覺しこがるれば、侍ふ人々もこしらへわびつゝ心細う思ひあへり。もてならし給ひし御調度ども彈き鳴し給ひし御琴ぬぎ捨て給へる御ぞのにほひなどにつけても、今はと世になくなりたらむ人のやうにのみおぼしたれば、かつはゆゝしうて少納言は僧都に御いのりの事など聞ゆ。二かたにみず法などせさせ給ふ。かつはかくおぼし歎く御心を靜め給ひてなぐさめ又もとの如くに返り給ふべきさまになど、心苦しきまゝに祈り申し給ふ。旅の御殿居物など調じて奉り給ふ。かとりの御直衣指貫さま變りたる心地するもいみじきに、さらぬ鏡とのたまひし面影のげに身に添ひ給へるもかひなし。出で入り給ひしかた、寄り居給ひし眞木柱などを見給ふにも胸のみふたがりて、物をとかう思ひめぐらし世にしほじみぬる齡の人だにあり、まして馴れむつび聞え父母になりつゝあつかひ聞えおほし立てならはし給へれば、俄に引き別れて戀しう思ひ聞え給へることわりなり。ひ