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しやらるれば、七日の日の節會はてゝ夜に入りて御前よりまかで給ひけるを、御とのゐ所にやがてとまり給ひぬるやうにて夜ふかして坐したり。例の有樣よりはけはひうちそよめき世づいたり。君も少したをやぎ給へる氣色もてつけ給へり。いかにぞ、改めてひきかへたらむ時とぞ覺し續けらるゝ。日さし出づる程にやすらひなして出で給ふ。ひんがしの妻戶押しあけたれば、向ひたる廊の上もなくあばれたれば、日のあしほどなくさし入りて雪少し降りたる光にいとけざやかに見入れらる。御直衣など奉るを見出して少しさし出でゝ、傍らふし給へる頭つきこぼれ出でるほどいとめでたし。生ひなほりを見出でたらむ時とおぼされて格子引きあげ給へり。いとほしかりしものごりに上げもはて給はで脇息をおしよせてうちかけて、御びんぐきのしどけなきをつくろひ給ふ。わりなうふるめきたるきやうだい、からくしげ、かゝげのはこなど取り出でたり。さすがに男の御具さへほのぼのあるをざれてをかしと見給ふ。女の御さう束今日はよづきたりと見ゆるは、ありし筥の心ばへをさながらなりけり。さもおぼしよらずけうある紋つきてしるき上着ばかりぞ怪しとは覺しける。「今年だに聲少し聞かせ給へかし。待たるゝものはさし置かれて御氣色の改まらむなむゆかしき」とのたまへば、「さへづる春は」と辛うじてわなゝかし出でたり。「さりや、年經ぬるしるしよ」とうち笑ひ給ひて、「夢かとぞ見る」とうちすじて出でたまふを見送りて添ひ臥し給へり。口おほひのそばめより猶かの末摘む花いとにほひやかにさし出でたり。見苦しのわざやとおぼさる。二條の院におはしたれば紫の君いとも美くしき片おひにて、紅はかう懷かし