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Page:Kokubun taikan 01.pdf/138

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さむや。かゝるわざは人のするものにやあらむ」とうちうめき給ふ。なにゝ御覽ぜさせつらむ、我さへ心なきやうにといと耻しくてやをらおりぬ。又の日うへに侍らば臺盤所にさしのぞき給ひて「くはや昨日のかへりごとあやしく心ばみ過ぐさるゝ」とて投げ給へり。女房たち何事ならむとゆかしがる。「たゞ梅の花の色のごと三笠の山のをとめをば棄てゝ」と歌ひすさびて出で給ひぬるを、猶命婦はいとをかしと思ふ。心しらぬ人々は「なぞ御ひとりゑみは」と咎めあへり。「あらず。寒きしもあさに、かいねり好める鼻の色あひや見えつらむ。御つゞしり歌のいとをかしき」といへば、「あながちなる御事かな。このなかには匂へる鼻もなかめり。左近の命婦肥後の來女や交らひつらむ」など心もえずいひしらふ。御かへり奉りたれば宮には女房つどひて見めでけり。

 「逢はぬ夜をへだつる中の衣手にかさねていとゞ見もし見よとや」。白き紙に捨て書い給へるしもぞなかなかをかしげなる。つごもりの日夕の方、かの御ころもばこに御料とて人の奉れる御ぞひとぐえびそめの織物の御ぞ又山吹か何ぞいろいろ見えて命婦ぞ奉りたる。ありし色あひをわろしとや見給ひけむと思ひ知らるれど、「かれはた紅の重々しかりしをや。さりとも消えじ」とねび人どもは定むる。「御歌もこれよりのはことわり聞えてしたゝかにこそあれ。御かへりは唯をかしき方にこそ」など口々にいふ。姬君もおぼろげならでしいで給へるわざなれば物に書きつけて置き給へりけり。ついたちのほど過ぎて、今年をとこ蹈歌あるべければ、例の所々遊びのゝしり給ふに、物さわがしけれどさびしき所のあはれにおぼ