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てゝも止みぬべきを、さだかに見給ひてはなかなか哀にいみじくて、まめやかなるさまに常に音づれ給ふ。ふるきの皮ならぬ絹、あやわたなどおいびとどもの着るべき物の類ひ、かのおきなのためまでかみしもおぼしやりて奉り給ふ。かやうのまめやか事も耻しげならぬを心やすく、さるかたのうしろみにてはぐゝまむとおもほしとりて、さまことにさならぬうち解けわざもし給りけり。かの空蟬のうち解けたりし宵のそばめはいとわろかりしかたちざまなれど、もてなしにかくされて口惜しうはあらざりきかし。劣るべきほどの人なりやは。げにしなにもよらぬわざなりけり。心ばせのなだらかに妬げなりしを負けて止みにしかなと物の折ごとにはおぼし出づ。歲も暮れぬ。內の御とのゐ所におはしますに大輔の命婦參れり。御けづり櫛などにはけさうだつすぢなう心やすき者の、さすがにの給ひ戯ぶれなどして使ひならし給へれば、召しなき時も聞ゆべき事ある折は參う上りけり。「怪しきことの侍るを聞えさせざらむもひがひがしう思ひ給へ煩ひて」と、ほゝゑみて聞えやらぬを「何ざまのことぞ。我には包む事あらじとなむ思ふ」とのたまへば、「いかゞは。みづがらの憂へはかしこくともまづこそは。これはいと聞えさせにくゝなむ」といたうことこめたれば「例のえんなり」と惡み給ふ。かの宮より侍る御文とて取り出でたり。「ましてこれは取り隱すべきことかは」とて取り給ふも胸つぶる。みちのくに紙のあつこえたるににほひばかりは深うしめ給へり。いとよう書きおほせたり。歌も、
「からごろも君が心のつらければ袂はかくぞそぼちつゝのみ」。心得ずうち傾ぶき給へる