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方おどろおどろしく長きなるべし。瘦せ給へることいとほしげにさらぼひて肩の程などは痛げなるまできぬの上まで見ゆ。なにゝのこりなう見顯はしつらむと思ふものから、珍らしきさまのしたればさすがにうち見やられ給ふ。頭つき髮のかゝりはしもうつくしげにてめでたしと思ひ聞ゆる人々にもをさをさ劣るまじううちぎの裾にたまりてひかれたるほど一尺ばかり餘りたらむと見ゆ。着給へる物どもをさへいひたつるも物いひさがなきやうなれど、昔物語にも人の御さうぞくをこそはまづいひためれ。ゆるし色のわりなううはじらみたる一かさね、なごりなう黑き袿重ねて、上着にはふるきのかはぎぬいと淸らにかうばしきを着給へり。こだいの故づきたる御さうぞくなれど、猶若やかなる女の御よそひには似げなうおどろおどろしきこといともてはやされたり。されどげにこの皮なうては寒からましと見ゆる御顏ざまなるを心苦しと見たまふ。何事もいはれ給はず、我さへ口閉ぢたる心地し給へど例のしゝまも試みむととかう聞え給ふに、いたうはぢらひて口おほひし給へるさへ鄙びふるめかしう、ことごとしくぎしき官のねり出てたるひぢもちおぼえて、さすがにうち笑み給へるけしきはしたなうすゞろびたり。いとほしく哀にていとゞ急き出で給ふ。「たのもしき人なき御有樣を見そめたる人には、疎からず思ひむつび給はむこそほいある心地すべけれ。ゆるしなき御けしきなればつらう」などことつけて、
「朝日さす軒のたるひは解けながらなどかつらゝのむすほゝるらむ」とのたまへど、唯むゝとうち笑ひていと口重げなるもいとほしければ出で給ひぬ。御車寄せたる中門のいとい