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Page:Kokubun taikan 01.pdf/133

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わかうどにて、この頃はなかりけり。いよいよあやしう鄙びたるかぎりにて見ならはぬ心地ぞする。いとゞうれふなりつる雪かきたれいみじう降りけり。空の氣色烈しう風吹き荒れておほとなぶら消えにけるをともしつくる人もなし。かのものにおそはれし折おぼし出でられて、荒れたるさまは劣らざめるを程のせばう人げの少しあるなどに慰めたれど、すごううたていざとき心地するよのさまなり。をかしうもあはれにもやうかへて心とまりぬべきありさまをいとうもれすくよかにて何のはえなきをぞ口惜しうおぼす。辛うじて明けぬる氣色なれば、格子手づからあげ給ひて前の前栽の雪を見給ふ。ふみあけたる跡もなくはるばると荒れわたりていみじうさびしげなるに、ふり出でゝ行かむことも哀にて「をかしきほどの空も見給へ。盡きせぬ御心の隔こそわりなけれ」と恨み聞え給ふ。まだほのぐらけれど雪の光にいとゞ淸らに若う見え給ふを、おい人どもゑみさかえて見奉る。「はや出でさせ給へ。あぢきなし。心うつくしきこそ」など敎へ聞ゆれば、さすがに人の聞ゆることをえいなび給はぬ御心にて、とかう引きつくろひてゐざり出で給へり。見ぬやうにてとの方を眺め給へれどしりめはたゞならず。いかにぞ、うちとけまさりの聊もあらば嬉しからむとおぼすもあながちなる御心なりや。まづゐだけのたかうをせながに見え給ふに、さればよと胸つぶれぬ。うちつぎてあなかたはと見ゆるものは御鼻なりけり。ふと目ぞとまる。普賢ぼさちの衆物と覺ゆ。あさましう高うのびらかに先の方少し垂りて色づきたるほど殊の外にうたてあり。色は雪耻かしく白うてさをに額つきこよなうはれたるに、猶しもがちなるおもやうは大