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せ」と語らひ給ふ。又契り給へる方やあらむ。いと忍びて歸り給ふ。「うへの、まめにおはしますともてなやみ聞えさせ給ふこそをかしう思う給へらるゝ折々侍れ。かやうの御やつれ姿を、いかでかは御覽じつけむ」と聞ゆれば、立ち返りうち笑ひて、「ことびとのいはむやうにとがなあらはされそ。これをあだあだしきふるまひといはゞ女の有樣苦しからむ」との給へば、あまり色めいたりとおぼして折々かうのたまふを耻しと思ひて物もいはず。寢殿のかたに人のけはひ聞くやうもやとおぼしてやをら立ち出で給ふ。すいがいの唯少し折れ殘りたるかくれの方に立ち寄り給ふに、もとより立てる男ありけり。誰ならむ。心かけたるすきもののありけりと覺して、陰につきて立ち隱れ給へば、頭中將なりけり。この夕つ方內より諸共にまかで給ひける、やがて大殿にもよらず二條院にもあらで引き別れたまひけるを、いづちならむとたゞならで、我も行く方あれど跡につきて窺ひけり。あやしき馬に狩衣姿のないがしろにてきければえ見知り給はぬに、さすがにかうことかたに入り給ひぬれば心も得ず思ひけるほど、物のねに聞きついて立てるに、かへりや出で給ふとした待つなりけり。君は誰ともえ見わき給はで、我と知られじとぬき足に步みのき給ふにふとよりて振り捨てさせ給へるつらさに御送り仕うまつりつるは、
もろともに大內山は出でつれど入るかた見せぬいざよひの月」とうらむるもねたけれど、この君と見給ふに少しをかしうなりぬ。「人の思ひよらぬことよ」とにくむにくむ、
「里わかぬかげをば見れど行く月のいるさの山を誰か尋ぬる」。「かう慕ひありかばいか