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おろし給ふ。少納言「猶いと夢の心地し侍るをいかにし侍るべきことにか」とてやすらへば、「そは心なゝり。御みづからは渡し奉りつれば、還りなむとあらば送りせむかし」との給ふにわりなくておりぬ。俄にあさましう胸も靜ならず、宮のおぼしのたまはむ事いかになりはて給ふべき有樣にか。とてもかくても賴もしき人々に後れ給へるがいみじさと思ふに淚のとゞまらぬをさすがにゆゝしければ念じ居たり。此方は住み給はぬ對なれば御帳などもなかりけり。惟光めしてみ帳御屛風などあたりあたりしたてさせ給ふ。御几帳のかたびらひきおろしおましなどたゞ引きつくろふばかりにてあれば、ひんがしの對に御とのゐ者召しに遣して大殿籠りぬ。若君はいとむくつけう、いかにする事ならむとふるはれ給へどさすがに聲立てゝもえ泣き給はず、「少納言が許に寢む」とのたまふ聲いと若し。「今はさは大殿籠るまじきぞよ」と敎へ聞え給へばいと侘しくて泣き臥し給へり。乳母はうちも臥されず物も覺えず泣き居たり。明け行くまゝに見渡せば、おとゞのつくりざましつらひざま更にもいはず、庭のすなごも玉を重ねたらむやうに見えて輝く心地するにはしたなく思ひ居たれどこなたには女などもさぶらはざりけり。疎きまらうとなどの參るをりふしの方なりければ男どもぞみすのとにありける。」かく人迎へ給へりと聞く人は誰ならむ。おぼろけにはあらじ」とさゝめく。御てうづ御かゆなどこなたにまゐる。日高う起き給ひて、「人なくてあしかめるを、さるべき人々夕つけてこそは迎へさせ給はめ」とのたまひて、君にわらはべめしにつかはす。「小きかぎり殊更に參れ」とありければいとをかしげにて四人參りたり。君は御ぞに纏は