ので万助さんが帰って来られたようだと云って、外へ出られました。すると、その途端に、パンと云う妙な音がして、ハッと思う間もなく、うちのが飛込んで来まして、いきなり私に打ってかかると、訳も云わずに、こん畜生、太いあまだと、踏んだり蹴ったり、とても乱暴をしました。私は、弁解する事も出来ず、ヒイヒイと苦しい声を上げるばかりでした」
女房が係官の訊問に答える間、万助は何回となく、
「うぬ、畜生! 噓つきめ」
と叫んで、彼女に打ってかかろうとして、その
「あいつの云った事はみんな嘘です。あっしは、すっかり見ていたんです。あいつは、あの男を、あっしの留守に引張り込んで、
「見ていたって」
女房の話す所が真実らしいと感じていた係官は、見ていたと云う万助の言葉に、やや驚きながら、
「どこで見ていたのか」
「遠くで見ていました」
「遠くで?」
「へい。芝から見ておりました」
「なにッ」
係官は
万助はしかし、真剣だった。
「芝から見ていました。それに違いありません」
「芝から、どうして、ここが見えるか」
係官が呆れるように云うと、万助はニヤリと、不気味な
「旦那方は、そう云う便利な発明があるのを、無論、御存じだと思いますが、あっしは、テレビジョンていうやつで見ていたんですよ」
この、一見粗野な、無教育らしい労働者風の男の口から、思いがけなく、最新科学に属する片仮名が飛出したので、係官は
「なに、テレビジョンで見た。ふむ、
「あっしは、今日夕方から浅草へ遊びに行きました。すると、八時頃、
自動車に乗せられて、スーッと