炉も、この真空電気炉も、珍ら〔ママ〕しいものだ。脇田博士は金属の熔融状態に於󠄁ける性質を研究していたと云うが、金属なら、一千度乃至ニ千度までの温度で十分な筈だが、見たところ、白金と白金イリジウムの
彼は一通り旧研究室を見終ると、私達を
新研究室には、格別彼の注意を惹くようなものはなかった。彼は円天井の日時計ばかり気にしていたが、とうとう堪え切れなくなったと見えて、窓枠に伝って、何の
「他に調べる事もないようです」
こう云った彼の顔はやや蒼ざめていた。
私達は新研究室の外に出た。すると、六尺近くもあろうかと思われる長身の好男子ではあるが、ひ どく神経質らしい、壮年の紳士に、パッタリと出会った。
彼はジロジロと私達を見ながら、
「あなた方は、何ですか」
「横林博士ですな」手塚弁護士が云った。「私は手塚じゃ。一度お目にかかった事があると思いますて」
「そう云えば、お目にかかった事があるかも知れません。何の用で、来られたのですか」
「予審判事の許可を得て、研究室を拝見に来たのですわい」
「予審判事の許可? それは変ですね。ここは故脇田博士の
「それはどうも失礼しました」
手塚は大分
「あなたがここの管理人になっておられる事を知らなかったものじゃから、ついお断りしなくてすまなかったが、私達は故脇田博士を殺害した真犯人を探すために、こうやって奔走していますのじゃが。あなただって、恩師の仇を探し出す事は不賛成ではありますまいて」
「ふむ。これは妙な事を承る。あなた方は警官ですか。いや、それよりも、脇田博士を殺した真犯人を探すと云うのはどう云う事ですか。犯人は既に検挙されている筈ですが」
「検挙されているのは真犯人ではないと思います」
青年理学士は、始〔ママ〕めてこの時に口を開いたのだった。
横林博士は、身体を曲げて、青年理学士の顔を覗き込むようにしながら、
「ふむ、君は誰ですか。どうして、八木万助が、真犯人でないと云うのですか」
私は横林博士が青年理学士の顔を知らないのは、些か不審だった。理科、殊に、理科のうちでも、 物理とか化学とかに限られると、学生の数も少ないし、教授は大抵学生の顔を覚えている筈である。 殊に青年は極く最近に大学を出たと云うのだから、尚更だと思うのだが。
「いえ、なに」
青年は横林教授に鋭く