原稿料の袋
一
探偵小説家の
「そやけどなあ、
床水はいつもの通り、変にそわそわしながら、ねばりのある女性的な関西弁で、熱心に云うのだった。
「あたいも見たいなあ」
矢張作家仲間の、猟奇趣味と云う滅多に原稿料を出さない雑誌の編輯をしている
彼等は宵に、虎之門附近の或る支那料理店でかなり飲んでから、尚二三軒飲み廻り、最後にこの銀座裏の小さなカフェ・コルネリアに来たので、時刻も大分遅く既にそれぞれ相当に酔っていた。だから折から一隅では来客の間に喧嘩が起っていたが、床水も満谷も一向そんな事には無関心で、喋り続けていた。ただ土井だけが少し
「
呶嗚ったのはかなり大きい強そうな洋服男だった。手には太いステッキを握っていた。
「俺を殴ると云うのかい。じゃ殴られてやらあ」
「手前みたいなヒョ口ヒョロした奴を殴つて、首が落っこちるといけねえから、
弱そうな男は何とか云って立上ろうとしたが、友人らしい男に止められていた。
「手前に云ったんじやねえやい。感違いしやがって、間抜め。酔わねえ時にやって来い、いつでも対手してやらあ。俺は毎晩銀座に来ているんだ。いつでも来い」
大男は図に乗って罵るのだった。
「
土井はちょっと感心したが、同時に弱そうな男の方に同情心めいたものが起って、仲裁してやろうかなと云う気がした。が別に取り留めた理由もなく、直ぐ止めてしまった。と、土井は何となくこの力フェが居心地が悪くなったのだ、突然叫んだ。