Page:KōgaSaburō-The Bag of Manuscript Fee-1994-Kokusho.djvu/20

提供:Wikisource
このページは校正済みです

 私はあなたに変装させる事によって、あなたの持っていた原稿料の袋を手に入れる事が出来ました。そうして幸運にも、それが永い間尋ね求めていた透かし入りの紙だったのです。

 私は部下のものにその事を知らせるためにちょっと外出しましたが、その留守にいつの間にか、私の巣窟を嗅ぎつけた警官が闖入して来たのでした。そのためにあなたに御迷惑をかけた事を深く謝します。

 私は大変な事を発見して落胆がつかりしました。私の苦心して手に入れた暗号には別に附属した地図がなければ何の役にも立たないのです。

 そのふと思いついたのは例の短刀です。殊に由利があなたにお礼に上げると云って渡したと云う事を思い出したので、きっと何か仕掛けがあると思ったのです。が、その時は既にあなたは屍体のある現場に連れて行かれていたので、一つにはあなたの窮境を救うため、咄嗟とつさに変装して、警官の真只中に飛び込んだのです。

 案の条、短刀の柄に大きな宝石と共に細かく畳んだ地図が潜んでいました。地図は手早く抜取ってしまいました。短刀の柄に思いついたのは、柄に青貝の螺鈿があった事から、何か機関からくりがあると思ったのです。もし柄から何も出て来ないか、或は柄の抜き方が直ぐ分らなかったら、私の立場は危険千万でした。あの高価な燦然としたアレキサンダーは少くとも一時、警官方の眼を眩ましてくれましたからねえ。

 こんな事で、由利の隠した金は私の手に這入りそうです。その暁には又改めてお礼申します。

 ではさようなら

葛城春雄

 読み終った土井江南は、昨夜の出来事を夢のように思い出しながら、葛城のやり方に舌を捲くと共に実際の渦中に投ずると、推理を働かす暇もすべもない事を、つくづく嘆じたのだった。

(「新青年」昭和三年一月号)