女の顔を見るのが身を切るより辛いのでございます。それに遭わせてくれるかどうか、それさえ分りません。丁度お通り合せのあなた様、一生のお願いでございます。何とかお力添え下さいませんでしょうか」
惣太はさっきからズボンのポケットへ手を入れて、
「そいつは気の毒だ。だがね、おかみさん、御亭主はもうその金を持っていないぜ。きっと女にくれてやったに違いない。これからあの宅へ行って、すったもんだと騒ぎ廻っても、無事に戻るかどうか分らない、第一亭主の恥を
一気にこう云い切ると、惣太は驚くおかみさんの手に紙幣束を無理やりに握らして、
惣太は元の洋館に引返え〔ママ〕すと、忽ち窓を破って飛び込んだ。中でキャッと異様な叫声が聞えた。はっと驚く想太の前に、背の高い年寄の西洋人がピストルを突きつけて立っている。その後ろに婆さんが震えている。
「だれ! だれ!」西洋人は叫んだ。
「こいつはいけねえ、あぶねえあぶねえ」惣太は手を振った。
「早く、出て行く
惣太は毬の如く窓から飛び出した。何が何やら分らなかったが、つまり惣太は以前の洋館の隣へ這入ったのだった。
「驚いた、驚いた。ピストル打つぞと来やがった。ドンとやられて
惣太は隣の洋館に近寄った。窓から
窓から飛び込むと、ピストルの恨みもある、惣太はいきなり男の頰を
「痛いっ! 何をするのだ」彼は
「誰だ! き、君は!」
「誰も蜂の頭もあるもんけえ。鼻の下を長くしやがって、ちったあ女房の事でも考えろ」
「あら、乱暴じゃありませんか。誰なの?」
女の声が後ろでした。
振り向くと、
「おや、出たな。化物め! 指輪をくすねて靴の中へ入れやがって、――」
惣太が尚も云おうとすると、蒼くなった女はツカツカと惣太の傍へ来て