Page:KōgaSaburō-Jade-Tōhō-1956.djvu/21

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 彼はそれを取上げて、土を払う暇もなく、メリとショベルの尖でこじ開けた。中から青い楕円形の断面の卵の少し小さい位の薄べたい石が一つ出て来た。

「何だ」竜太は落胆したように云つた。

「之はたゞの翡翠じやないか」

 と、この時に突然、駒田は脱兎のように竜太に飛ついて、あつと云う間に竜太の手にした翡翠を奪つて、逃げ去ろうとした。が、油断のない竜太にむずと手首を捕まえられて、忽ち彼の怪力に組伏せられて終つた。

「巫山戯るなツ」竜太は一喝した。

「貴様のような色の生白い奴に、鼻毛を拔かれて耐るものか。さあ云え。どうしてこんな只の楕円形の緑の石にそんな値打があるのだ。人殺しをしてまで盗もうと云う奴のあるのはどう云う訳だ。貴様は確かにこの石について、委しい事を知つているに違いない。俺が高野の青い石の話をすると、急に乗気になつたから、何でも青い石の事を知つてる者に違いないと思つて、わざと一伍一什を話して、こうして現場まで連れて来たんだ。さあ、早くこの石にどうして値打があるか云えツ」

「わ、悪うございました。盗んで逃げようとしたのは確かに悪うございました。訳をすつかり申します。ですからどうぞ、その石を私に売つて下さい」

 青年は組敷かれながら、一生懸命に嘆願するのだつた。

「よし、話の次第では売つてもやろう。兎に角、こゝは場所が悪い。宅まで来い」



「私は駒田などと名乗つて居りますが」青年は再び竜太の家の居間に帰ると、改つて話し出した。

「実は朝鮮の人間なのです」

「ふん」

 妖婆のような顔を頰杖で支󠄂えながら聞いていた竜太は意外と云う風にギロリと眼を動かしたが、巨大な鼻に皺を寄せて、後を促した。青年は直ぐ後を続けた。

「私は子供の時から曰本で育ち、御覧の通り言葉も自由自在です。私はこちらの学校を出ました。三年前に郷里に帰りましたが、其時に計ずも郷里始つて以来の大事件が起りました。