『駄目々々、その何とかして取返そうという気持〔ママ〕が一番いけないんだ。賭博にゃ禁物だよ。』
『そうじゃないんだ。僕ア何とかして負けちまいたいんだ。』
『えッ。』ドイツ人は
『実ア、溝ン中へ棄てちゃってもいいんだが、金は金だから人に渡した方がいいと思って――僕ア賭博なんて大嫌いなんだ。せめて酒でも呑めりゃ、グデングデンに酔って暴れ廻るという手もあるが、僕アそれほど呑めないんだしなア。』
『そうか。』ドイツ人は探るように青年を見ていたが、大きくうなずいて『お前失恋したな。』
『失恋?』青年は自嘲するように反問して、『そんな気の
『オットてえんだ。ドイツ人だよ。』
『僕ア名乗るほどの者でもない、名乗っても仕方がないんだが、まア礼儀だ。高橋てえんだ。高橋友吉、オットさん、忠告有難うよ。又御縁があったら会おうぜ。』
そういって友吉は元の
オットは暫く見送っていたが、やがて
椋鳥
友吉がオットに目配せされて立上った空席へ掛けるでなし、立ったままで
小柄な男はキチンとした紳士風はしているが、どことなく下品な所があって、一口にいえば芸人といったような所がある。田舎者が東京に来たように、キョトキョトしている。どうやらこういう所は始めてで、場馴れがしないようである。
「稲妻ジム」はひょいと顔を上げたが、いい椋鳥が来たと思って、『おい、お客さん、一勝負行かないか。』
相手の日本人は英語が少しは分ると見えて、そういわれた途端に、ビクッとしたが、すぐ
『駄目々々、私、見物ある。勝負しない。』
『何もむつかしくはないんだぜ。何でもないんだ、子供でも出来るんだよ。いいかい、種も仕掛もねえ。この
小柄な男はモジモジしていたが、カードを手に取ろうとせず、分ったという風にうなずいて見せた。
『じゃ、いいかい、「
ジムは器用な手つきでパラパラとカードを混ぜ合せた。
やがて、ジムはそのカードを小柄な日本人の前に置いて、
『そいつを好きな所から二つに切って呉ンな。』