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うでは様子を見ていたと見えて、ニコニコしながら、

『後を私がやらして貰いますから、見ていて下さい。一人じゃ心細いから。』

 と、いって、友吉が突然の事で止めようとする言葉を出し遅らしている暇に、彼は友吉の席を占め、稲妻ジムに、片言の英語ブロークン・イングリツシユで、

先刻さつき百弗取られた。あれ、インチキ、人がそういってる。』

『何を。』と、ジムは敦圉いきまいたが、相手は素人と考え直して、『冗談いっちゃいけないよ。インチキなんて、飛んでもないいい掛りをつけちゃ困るよ。』

 小柄な男は手真似と身振りを交ぜて、

『私、スペード十引く。すると、君、五十二枚共ジャックのカードとスリ変える。私に混ぜ合わさせる。いくら混ぜ合してもみなジャック、どこ取っても君勝つ。』

『ワハハ……。』哄笑した。『こいつア、妙案だ。だが、そうすると、何だぜ、お前さん。お前さんは正当まとものカードを切るんだから、何を引き当てるか分りゃしねえ。仮りにジャックを引いて見ねえ。俺は五十二枚共クイーンのカードを、フ……、笑わしちゃいけねえ。そうなりゃ、俺ア、キングばかりのカードだの、何組と持ってなくちゃならないのじゃないか。お前さんの方だって、盲目めくらじゃねえぜ、カードをそっくり取換えられて、てんで気がつかねえというのかい。冗談じゃねえ。』

『君がいつでも高い札カットする。それが不思議ある。』

『俺の指にはな。』ジムはニマリと笑って、、神様が宿ってるのだ。いつでも思う札が切り出せるんだよ。』

『それ嘘ある。君のカード仕掛けある。』

『冗談いうなというのに。お前さんは俺に喧嘩売る気か。俺のカードに仕掛けがあるというなら、誰のカードででも勝負してやらア。』

『それが宜しい。新しいカードでやる宜しい。』

『おい、「頤髭あごひげ」』と、稲妻ジムは傍にいた乾分こぶんのフランス人らしい男を呼んで、『帳場へ行って、新しいカードを持って来い。』

 「頤髭」と呼ばれたフランス人はすぐ帳場の方へ飛んで行って、やがて新しいカードを持って来た。

 ジムはチラリとカードを見ただけで、手に取ろうとせず、相手に、

『これなら文句はねえだろう。俺は触らねえから、お前、「混ぜ合せシヤツフル」しろ。そして卓子テーブルの上に置け。俺ア、お前のいう札をカットして見せらア。』

 小柄な男は新しいカードの封を切ると、前回と違って巧みな手つきで「混ぜ合せシヤツフル」した。思いなしか、田舎者のようにオドオドした態度も消え失せて、眼の玉がクルクルと鋭く動いて見えた。

 彼は十分に「混ぜ合せシヤツフル」すると、カードを卓子テーブルの上に置いた。

 ジムは速る心を押ママえて、わざと冷静を粧いながら、ニヤリと笑った。

『さア、どのカードを切り出すのかい。』

『ハートのエースだ。』

『よし。』ジムはうなずいて、『それで賭はいくらだ。断って置くが、今度は、百弗やそこら