Page:KōgaSaburō-An open window-Kokusho-1994.djvu/6

提供:Wikisource
このページは校正済みです

一つ、ポツンと見えた。

「そこに見える家だよ」

 渡辺はそういって、私達の先頭になって、林の中に這入ったが、不意に立止って、首を傾けた。

「変だよ」

「何が」私は訊いた。

「見給え。この寒さに、あの通り洋館の窓が開け放しになっている」

 なるほど、そういわれて見ると、洋館の窓の中の一つが、これ以上開かないというほど、思い切り大きく開けてある。

「締めるのを忘れているんだろう」金子がいった。

「そうかも知れない。しかし――」

 渡辺は未だに落ちないような顔をして、考え込むような恰好で歩き出した。渡辺と一緒に歩いていると彼はきっと何かしら私などの気のつかない事を見つける。そうした事が、後に何かの役に立つ事もあり、全然何の役に立たない事もあるが、とにかく科学者の観察の鋭さという事については私は毎度ながら頭を下げているのである。

 やがて私達は洋館の前についた。

 渡辺が案内を乞おうとすると、まるで待ち合していたように、中からドアが開いた。

 私はハッと思った。むろん、そこに立っているのは、佐山みな子に相違ないけれども、私は看護婦をしたり、手切金を利殖して土地を買うような女だから、近眼鏡でもかけてツンと澄した女か、それとも膏切あぶらぎって、人をジロジロ見廻すような女かと想像していたのだったが、今玄関に現われたのは、 白いというよりは蒼ざめた顔色が陰気には見えるが、二重瞼の鼻筋の通った感じのいい洋装美人であった。


枯れ枝


 みな子は渡辺を見て、愛想よくニッコリと笑ったがすぐ私達の方にさぐるような眼を投げかけた。

「こちらが高笠君で」渡辺は急いで紹介した。「こちらが弁護士の金子君です。私の親友で、丁度高笠君と一緒にいたものですから――」

「よくいらして下さいました」みな子は始ママめて私達に笑顔を見せながら、「さアママ、どうぞ」

 私達は玄関のすぐ傍の小さい応接室に通された。

 みな子はいいくそうに、

「アノ、只今主人は客間の方で寝ておりますので、お茶も差し上げませんで、大へん失礼でございますけれども、今のうちに地所の方をご覧下さいませんでしょうか。起きますと、うるそうございますので――」

「承知しました」渡辺が気軽く答えた。「すぐ拝見しましょう。明るいうちに拝見して置く方がいいですよ。ねえ、諸君」

「うん」

 金子が渋々答えた。全くこの寒空に、折角部屋に這入ったと思った途端、又外へ引張り出されるのは有難くない事に違いない。

 地所は思ったより遙かに広かった。こんな片田舎だから、今こそ電車の開通で多少便利になったと