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発見をした事が、愛人の罪を決定したんだからね」

「そういえばそうだが――」

 こう私が答えた時に、思いがけなく渡辺が這入って来た。渡辺は私達二人共に親しい間柄で、ある研究所に勤めている理学士である。

「やア、金子君が来ていたか」渡辺は勢いよくいって、次に私に、「高笠たかがさ君、忙しいかね」

「今朝暁方までかかって、書き上げた所だよ。グッスリ寝ている所を金子に起さママれたんで――君はどうしたんだ研究所は?」

「今日は休みを貰ったんだ。すると、高笠君は暇だね、金子君は?」

「僕も昨日やっと事件が片づいてね、ホッとしたので、ここへ来てね、気の毒だとは思ったが寝ている所を起したという訳さ」

「それは好都合だ。どうだ、君達浦和までつき合わないか」

「浦和?」私は思わず聞き返した。

「うん、或る婦人に相談を受けてね――」

「相変らず、君は」金子がニヤリと笑いながらいった。「婦人奉仕をやっているんだね」

 渡辺はすぐれた科学的頭脳を持っていて研究方面でも素晴らしい仕事をしていたが、こうした学者にありちな偏屈といったような所は全然なく、常識に富んでいて、性質は温厚で親切で、その上に男らしい立派な容貌を持っていた。従って婦人に持てはやされる事は非常なもので、どんな婦人でもすぐ彼が好きになった。しかし、渡辺はくまで真面目で、まだ一度も悪い噂さママを立てられた事がない。野心があるなしに係らず、彼の周囲にはいろいろの女が集って、何かと相談をかけるが、彼はそれを面倒がらずに、親切に応じてやるのだ。金子は渡辺を評して、いつでも「婦人奉仕家」といっている。

「主人が永らく病気でね」渡辺は金子に皮肉られても案外平気で、「土地を処分したいとかいってるのさ。実は高笠君を誘って行くといってあるんだよ。小説家の高笠君の他に、もう一人法律家の金子君に来て貰えばこんな心強い事はないよ」

 電車に揺られている間に、渡辺の話した所によると、女の名は佐山みな子といって、今年三十二三位、一度不幸な結婚をして、現在の良人の佐山秀造とは二度目の結婚で、そのために年も二十近く違う。みな子は先夫と別れる時に貰った手切金を旨く利殖して、その金で三四年前に浦和の在に安い地面をかなり多く買込んで、そこに一寸した洋館を立てて、良人と二人きりで住んでいるのだ。

「先夫と別れてから暫くは派出看護婦をして自活していたという女だけに、中々しっかりしてはいるがね、最初の結婚に失敗しながら、二度目の結婚も失敗なんだよ。可愛想な女さ」

 渡辺の語り続けた所によると、現在の良人の秀造は先妻を亡くしてから間もなく病気になって、そこへみな子が看護婦として派出されて、やがて結婚という事になったのだが、みな子は秀造が国許には相当な資産があるといった言葉を信じた上の事だったが、結婚して見ると、不動産はあるにはあっても、みんな抵当に這入っていて、利子もろくに払ってないという始末で、要するにだまされたという結果になったのだ。

「もう結婚して五年になるそうだが、最初秀造が親戚達の財産を残らず食い潰してしまうような怠け者で、しかも今は一文なしの人間だと知った時にはすぐさま別れようかと思ったが、一度ならず二度までこんな事になるのは、前世の因縁だとあきらめて、辛抱する気になったんだそうだ。で、結婚したからには看護婦も出来ないし、さりとて夫婦揃って遊んでいる訳にも行かないので、前にいった通り、