Page:KōgaSaburō-An open window-Kokusho-1994.djvu/3

提供:Wikisource
このページは校正済みです

開いていた窓


食卓の殺人


 確か三月の初め頃だと思ったが、ひどく寒い朝だった。前の晩に徹夜で仕事をして、暁方ようやく床に這入はいった私は、寝入花ねいりばなともいうべき十時頃に金子に起された。金子は引受けていた法律上の難事件が、やっと昨日片づいたので、ホッとした気持になって、私の所へ油を売りに来たのである。

「大当りじゃないか。帝国座の『食卓の殺人』は大へんな評判だぜ」

『食卓の殺人』というのは、私が書き下した探偵劇で、事実金子のいう通り、非常に好評で毎日満員を続けていた。

「有難う。お蔭でね」

「君にしちゃ、皮肉なものを書いたね」

「そうかね、そう皮肉の心算つもりじゃないんだけれども――」

「いや、相当皮肉だよ。愛人に嫌疑が掛かりそうなので主人公が必死にかばって、何とかして逃れさせようとする。ところが、たまたま主人公が塩皿に砂糖が這入っていたという、誰も気のつかなかった