響きます。木立の
私はギョッと立
着物の端らしいものが、穴の中から暗に馴れた眼に映ったのです。私はあわてて眼を外らそうとしましたが、悪夢を見た時のように
手探りで、どうやら死人の手らしいものに触れると、私は思わずあっと手を引込めました。氷のように冷い、それでいてジメジメと云おうか、ヌラヌラと云おうか、一種異様な手触り、一秒だって触れている事は出来ません。
私は逃げ出そうとしました。しかし頭の中で悪魔が証拠をどうすると囁きます。
証拠! ああ悪魔よ! 私は人殺しをしたのだ。そうして証拠を残したのだ。どうしても奪い返さねばならぬ、いつか私は兇暴な心になって死人の指を開きました。
どっちの手やら分りませんが、とにかく、最初開いた手には駒はありませんでした。もう一つの手を必死の力を奮って開けますと、どうでしよう、何にもありません。あわてて最初の手を探りましたが、矢張りありません。私は茫然としました。それから大急ぎで死骸に土を被せて元通りに致しました。
「御気分は?」こう彼女は聞きました。
「何ともない、もう治ったよ。便所へ行っていたんだ。」こう私が答えますと、妻は安心したらしく、ガックリと寐てしまいました。私は床に潜り込んで、寐ようとしましたが、どうにも寐つけません。両手に異様な
翌朝眼を醒ましたのはもう昼近くでした。身体が綿のように疲れて、少し熱があるようでしたが、私は将棋の事が気にかかるので、無埋に起き上りました。食事をすますと、直ぐに盤を出して、並べて見ましたが、不思議、駒はちゃんとあるのです。どう考えて見ても、訳が解りません。
第一に心配になったのは、昨日の友人の事です。私の怪しい行動を、彼はどこで話すかも分らない。もう現在どこかで話しているかも知れない。そうすれば何かの拍子で刑事の耳に這入るかも知れない、こう考えると私は居ても立っても
夕方彼の元気の好い声が玄関に聞えました。私はすぐにいそいそと彼を出迎え、
だんだん駒が並べられて行くうちに、私は恐ろしい予感に襲われました。そして、ああ、事実は予想通りだったのです。私は化石した身体で、