「え――と、ここが居間だな」
部屋は日本室だつたが、絨氈を敷いて椅子机を置いた西洋式の調度のある所へ、彼はツカ〳〵と這入つて、ジロジロと四辺を眺めたが、隅の方に置いてあつた大型の金庳の前に猶予なく近づいた。
「ふう。大分旧式のものだな」
彼は金庫を暫くためつすがめつ見ていたが、こう呟いて金庫の傍に寄つて、カチ〳〵と音をさせたかと思うと、もう金庫の重い扉󠄁がギイと開いたのだつた。
「あっ」余りの事に、簑島が思わず叫声を上げる暇もなく、彼は金庫の中から大部の帳簿を二三冊抱え出して、椅子の上にドッカと腰を下して、バラ〳〵と急がしく頁を繰り出した。
少し遅れて不安そうについて来た女中は、この有様を一目見ると、あつけにとられて棒立になつた。然し、手塚は平気だつた。
「え――と、成程、之だな」
彼は大きくうなずくと、簑島を〔ママ〕呼びかけた。
「おい、君、さつきここの主人の斃れていたのは、何と云う家の前だつたかね」
「え、え、ここの主人が」蓑島は吃驚した。
「そうだよ。こゝの主人の柏木金之助が斃れていた所さ」
「あの、旦那様がどうかなすつたのですか」女中は小耳に挾んだ容易ならぬ言葉に顔色を変えながら訊いた。
「殺されたんだよ」手塚は不様に大きい鼻に皺を寄せて、卑しい笑いを見せながら云い放つた。
「えツ」女中は大声に叫んだ。
「柏木金之助はね、自分のピストルでね、一発でやられたんだよ」
「えツ、それは本当ですか」
「本当とも」
「それは大変です、直ぐ奥さまに知らせねばなりません。警察の方にも来て頂かなくてはなりません」女中は狂気のように叫んだ。
「そうあわてなくてもいいよ」彼は平気だ。
「奥さんに知らせた所で生き返るものではなし、警察には別に態々知らさなくても、今頃はもう死体を発見しているかも知れん。尤もあの死体が柏木金之助だと云う事は鳥渡分るまい。僕