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がこの六面體の表面および內部の一定點に配置され得る可能性と函數的關係をもつてゐる。


註(九)「船頭部屋」に『ここも都の辰巳とて、喜撰は朝茶の梅干に、榮代團子の角とれて、酸いも甘いもかみわけた』といふ言葉があるやうに、「いき」卽ちの味は酸いのである。さうして、自然界に於ける關係の如何は別として、意識の世界にあつては、酸味は甘味と澁味との中間にあるのである。また澁味は、自然界にあつては不熟の味である場合が多いが、精神界にあつては屢々圓熟した趣味である。廣義の擬古主義が蒼古的樣式の古拙性を尊ぶ理由もそこにある。澁味に關して、正、反、合の形式をとつて辨證法が行はれてゐるとも考へられる。『鶯の聲まだ澁く聞ゆなり、すだちの小野の春の曙』といふときの澁味は、澁滯の意で第一段たる「正」の段階を示してゐる。それに對して甘味は第二段たる「反」の段階を形成する。さうして『無地表、裏模樣』の澁味、卽ち趣味としての澁味は、甘味を止揚したもので、第三段たる「合」の段階を表はしてゐる。